September 23, 2024
晩夏初秋の新作紹介 vol.19 CANTONの1963XX Denim Late 1930's 5 Pocket Jeans “#1963-104” (後編)
連休最終日、とはいえこの連休は給料日近くで予算編成が厳しい連休でもあり。まぁその辺考慮してお取置きという選択肢を取るお客様もいらっしゃるのですが、昨日今日と使用目的がはっきりしているアイテムを見にいらっしゃるお客様がお越し下さいまして、具体的には身内の結婚式でのコーディネートの補完と、転職したらビジカジの社内規定がそれまでよりカッチリになってしまったので、その対応でジャケパンを、という方がそれぞれご来店下さったという。昨日いらした方の結婚式用に関しては靴・ベルト・ベスト・シャツといったところでしたが、今日お越しの方のご要望を聞いて最近のビジカジという定義の幅の広さを改めて認識させられました。
というのも最近ではビジカジと言いつつほぼ何でもありなカジュアルになっている会社の方が多く、いわゆるドレスカジュアルの範疇を指定しているところが減っていたからなんですが、ジーンズは駄目だけどそれ以外のパンツはOKで、後はあまりに仕事に対する姿勢を疑われないレベルなら良い、といったところが最近では多いんですね。でもクロージングテクニックを活かしたイタリアのクロージングを中心に取っているドレスカジュアルアイテムはもうちょっとアイテムとしては堅く、でもイタリアではパンツはジーンズでシャツにベストにジャケットで足元もカジュアルな革靴、という感じですし。しかも我が国の結構堅めのところでもあたりの出ていないデニム生地のスラックスはありでデニムの5ポケットでなければ良いといった感じなので、さてどうしてくれようか、となりますよね。まぁ今回は手堅くドレスチノにこの時期なので綿素材のジャケットとローファーという事になりましたが、靴も営業とか他社の方と会う仕事だと紐靴の方が良いでしょうし。これが良いのだ!と押し切ってしまうのは簡単ですけどその多様性に合わせた提案が出来てなんぼなところがあると思いますので、セレクトショップというのは。
と、前置きが長くなりましたが一昨日・昨日と2日間、キャントンの盛衰から見る日本デニム史にお付き合い下さってありがとうございました。お待たせしました、本日はそれを踏まえての今回取ったアイテムの紹介をさせて頂きます。
1963XXデニムについては昨日説明しておりますので、そちらを読んで頂くとしてこのデニムでヴィンテージレプリカ的にリーバイス501をベースとしたバリエーションを作ろうとすると、尾錠の付いた1930年代のSXXモデルと大戦モデル、そして1950年前後のXXモデルに1960年代の66モデル辺りがディテールやシルエットの変遷を知っていると特徴的な変化のあったモデルと言えるでしょう。
ただこれ、SXXからXXにかけてのモデルはシルエットが全て太めのストレートって事になってしまいまして、それが好きな方には良いんですけどそうでない方には今一つ野暮ったく見えるのが否めません。CANTON OVERALLSの5ポケットのラインナップは3型で、1930年代後半のSXXモデルのディテールを踏襲したモデルと1940年代後半のXXモデルのディテールを踏襲したモデル、そして1960年代後半の66モデルの3型、それに加えてペインターパンツがラインナップされておりますが、どうせペインターパンツは太いんだし、という事でシルエットとしては5ポケットモデルはどちらも腰回りからお尻にかけてのシルエットは年代そのもののラインでありながら、腿から膝裏にかけての野暮ったさを生む余りの部分をバッサリとカットしてシャープなシルエットにしております。
そしてこの1963XXデニム、何と元々は12ozとデニムとしては軽量なんですが、いわゆる岡山での糊落としのワンウォッシュ(60℃台のお湯に10時間程浸けて天日乾燥)によって15%程生地が縮んで目が詰まり、結果的に洗い上がりでは13.75ozになっております。この13.75ozというのは元々のリーバイスの501XXに使われていたコーンミルズ社ホワイトオーク工場で作られたXXデニムと同じウェイトではあるのですが、昔から何故こんなに中途半端なウェイトなんだろうと疑問に思っていたんです。つまりこれ、未防縮の時代に縮んで13.75ozになっていたので、防縮かけて縮まなくなると12ozで作ったら12ozのままですから、それだと従来よりも軽くペラく思われてしまうので、防縮する様になって13.75ozで作った、という事なんでしょう。実際触ってみると斑糸とテンションゆるゆるで伸ばされていなかったのが目が詰まったのとでかなりな凹凸と粒状の隆起がランダムに現れるヘヴィオンス(触りとしては14oz以上です)のデニムになっております。この縮みが他のジーンズと一線を画すシルエットん完成に一役買っていて、元々のシルエットは余計な部分をシェイプしてあるとはいえそれなりな太さのストレートなのですが、縮んだ結果更にスッキリしたシルエットになってしまっていて、これだとヴィンテージディテールなのにシルエットはスッキリという私としては理想的なジーンズになっております。
この4型のパンツと4型のトップス(Early・2nd・3rd・Railroad Worker Coverall)にだけしかこのデニムは使われておらず、それ以外は防縮した生地が使われており、コラボモデルがいくつかありますがそちらにはこのデニムは使われておりません。
それではこのジーンズの作り込みを見ていきましょう。
まずシンチバック、尾錠が付いております。これがあるとベルト無しでもこれで調節して履けます。この1963XXデニムはまさにその物ですが、5ポケット成立以前から未防縮のデニムは非常に縮むので、大きなサイズを買い縮み切った時に自分のサイズになる様に買うもので、それ迄はサスペンダーボタンで吊って履いているのが一般的でした。そうでなければこのシンチベルトで締めて履くかベルトを締めるかで、使う人が選べる様になっていたんですけど、リーバイス社ではサスペンダーボタンは1937年、シンチベルトは1942年に廃止されております。ちなみにベルトループが付いたのは1922年から。結果としてベルトに統一された、という事ではあるのですが、この尾錠が付いていてサスペンダーボタンがないというのは上記の通りで1937年以降1942年以前のディテール、という事になります。
そして股下リベット。未防縮のデニムを使っていた時代はファスナーにすると波打ってしまうのでボタンフライにしていたんですが、それが残ってボタンフライのフロント=ヴィンテージディテールといった感じに。でも8割以上防縮かけたデニムのジーンズはファスナーでも問題ありませんので、楽チンという点においてはジップフロントにした方が良い、という事に。そしてボタンフライの場合上から左右に力を入れ気味に前後に引くとフロントボタンが一気に外れるので、そういう風に外す人が多いのですが、その際に股が裂けてしまわない様、そしてリベットで補強したデニムパンツ=ジーンズという特許を持つリーバイスとしてはその謳い文句の主張として裂け易いとされる場所にはリベットを打っております。でも実際には余程の事がなければ裂ける事なんてないので、あくまでリベット補強パンツのアピールだった、というのが本当の様です。このディテールはジーンズ初期から1942年に廃止になる迄リーバイスの頑丈さの象徴的に使われてきましたので、その廃止については色々実しやかな風説があり、焚き火で熱くなった股リベで大事な所を火傷したというクレームがあったからだとか言われてますが、シンチバックと同じ1942年に米国で第二次世界大戦の物資統制が実施され、リーバイスも大戦モデル仕様に切り替えを余儀なくされた事で廃止された、というのが真実です。
そしてヴィンテージレプリカブランドの作るジーンズで1960年代以前のリーバイスのディテールを云々謳っておいてこれが無いのは許せないと個人的に思うのが隠しリベットです。この隠しリベットが採用されたのが1937年で、それ迄はお尻のポケットの角には表からリベットが打たれておりました。しかしその結果馬の鞍を傷つけるとか裸馬だと馬の背を傷つけるといった問題が報告されており、1935年には米国の自動車普及率が55%となった事で高価な耐久消費財であった車のシートを傷つけるのを防ぐ為にこの年から隠しリベット仕様になりました。リベットを廃止せず隠しリベットにする事でリベット+デニム=ジーンズという彼らの矜持を保ち続けました。1967年に廃止される迄リーバイスのデフォルトディテールでしたから、これ無しで作るなんて考えられません。当然これでこそ細部のディテールに神宿るというヤツですが、そんなディテールは当然ですけどしっかりと押さえております。そしてフロントボタンはオリジナルの鉄製ブラックボタンを使用し、裏リベットは全て銅製で表の皿は黒くメッキした打ち抜き仕様にして往年のディテールを忠実に再現しております。この黒メッキというのをやっているところはとても少なく、なかなか見ないディテールですが、これによって赤銅色が表に出ずとても大人びた付属使いと言えるでしょう。これはこの1930年代後半モデルのみのリベットとボタンの仕様で、これ以降のモデルである2型のジーンズのリベットはノーマルの銅リベットです。
加えて今回のこのモデルに対して私が好感を持っている仕様、革パッチに無駄に凝っておらず、、リベットの皿を全て黒メッキしてギラツキを無くしたのに合わせ、ヒップポケットに付けたタブと、革パッチが付いていた場所のマーベルトとヨークの間に付けた落ち着いた黒いタブ、これでこのシリーズのブランドイメージを作り上げております。元々のCANTONの革パッチの資料は沢山ありますが、このシリーズに関してはヴィンテージディテールを踏襲しているとはいえベタベタなヴィンテージリーバイスのレプリカではなく、日本最初の国産ジーンズ作成時にリーバイスと同じコーンミルズデニムではなくキャントンデニムを使った日本のジーンズを志した事から、リーバイスの特許たる赤タブを使用せず日本製である事を主張する大人なタブを使用し、加えて革パッチのあるべき位置をステッチで示すのみ、としております。あくまで実用ではないアピール用のタブやパッチはこの前社から開発に10年かけて辿り着いたデニムを活かす為の付属である、という事です。
という事で3日かけて説明をしてきましたが、如何でしょうか。ここまでこのジーンズについて丁寧に説明をしたところはありませんし、日本のジーンズ史について語るところはあってもアプローチの仕方がキャントンメインではないでしょうし、米国のキャントンミルズの興廃やヴィンテージレプリカブームについてまで語るところもないので、それなりにトリビア満載で楽しんで頂けたかと思います。今回サイズは28・30・32・34・36インチの5サイズ展開で、この表記は洗い上がりで大きく縮んだ後の表記です。ここから1.5cm程度縮む可能性はありますが、ある程度縮みは確定しております。ただ捻れてはいきます。価格は36,300円(税込)です。特に28・30・32に関してはB.A.Tにある分が全てになりますので、気になった方はお早めに。
再現性のない、発表当時は色々と露出していたものの、二度と作られない価値あるデニム生地です、是非チェックしてみて下さいませ。
明日は今日随分と涼しくなった事もあって同じぐらいの気温の様ですが、またすぐ30℃になってしまうみたいですけど、最低気温は20℃前後になるみたいですし、ここは本国の定番ラインナップには存在しないヘヴィウェイト生地のルミノアの長袖Tシャツのスペシャルカラーを紹介しておこうと思います、お楽しみに。
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